訃報

大切な友人

が11月1日早朝に現世に別れを告げた。


名はタツさんという。


若かりし俺がバーテンダーの修行をしていた頃、決まって夜中の3時以降の閉店前に現れるという人だった。

生粋の単車乗りで「車の免許なんかいらねぇよ。俺には単車があるからな」

といって30才をこえても普通自動車免許をとりに行かねぇような筋金入りだった

俺も単車が好きでいつしか打ち解けたタツさんと一緒に流しにいったりもした。

中免しか持たねぇ俺は時代遅れの初期型のゼファー400、タツさんはゴツい見た目にも似合うV-maxをねじ伏せて走っていた


いつもバーに来ると注文をしないタツさん。決まってキープボトルのバーボンである「イーグルレア」をお気に入りのバカラのショットグラスでストレートで飲み、チェイサーはジンライム

時にはスゲェ辛めのイーグルレアのチェイサーに甘めのバーボンであるハーパー10年やヘンリーマッケンナーをストレートでなどというハナレワザを呑ってのけるようなイカれた人だった。

仲間内にはとても優しいタツさんだったがそれ以外には意外と素っ気なく、いつもカウンターの端から2番目辺りで寡黙に呑っていた。

俺の単車が調子悪いと言えばいつもなおすのを手伝ってくれた。直しながら

「お前こんな手のかかるボロに乗ってねぇでもっと新しい速い単車買えよ」

などと歯に衣着せぬ物言いで俺に色んなことを教えてくれた

高速で平均速度200キロオーバーで法律違反も甚だしい走りを見せていたタツさん

そうかと思えば、暇な日に店に電話をかけてきて「お前暇だろ。今からカラオケ行こうぜ」などという…

「え?タツさん…カラオケ嫌いって言ってませんでしたっけ?」


「おぉ~、気分がいいから今夜は特別だ、お前早く店閉めて来いよ」

「雇われの身で勝手に店閉めらんないッスよ。また今度俺が休みの日に行きましょうよ」

「そうか、じゃあまたな」

いつだったか「ニュートン」という雑誌を持って店に現れたタツさん。

タイムマシンの話しを俺にしてくれた。

「もし光の速度で走れるマシンができたらな、円形の場所を走る仮定だと出発したばかりの自分の後ろ姿が見える計算になるんだぜ。もっと速いマシンができりゃタイムマシンも夢じゃねえ」


馬鹿な俺のアタマじゃ理解不能な話も解りやすくずっと話してくれた



いつしか俺はバーテンダーを辞め職人の世界に戻った。大変だが楽しくやりがいのあるバーでの仕事を離れるのはとても気合が必要だった。俺の目標は自分の店を持つことだったから

でもこのままじゃ家族に飯を食わせるのは収入的にも俺の体力的にも無理だった。





バーを離れた後もタツさんは俺と遊んでくれた。店員とお客さんという垣根を乗り越え友人として一緒に呑みにいったりもした

それから数年、仕事に忙殺される日々の中でなかなかタツさんと一緒に呑む機会が無かった。

新潟に出張中だった俺に仲間からタツさんが入院したという連絡がきた

膵臓癌だという…慌てた俺は新潟の現場をほっぽりだして入院しているタツさんを見舞った。

見る影もなく痩せていたタツさんを見て俺は思わず泣きそうになったが、手術は上手くいったから大丈夫だと言うタツさんの言葉にぐっと涙をこらえタツさんの復調を待ってまた呑みに行きましょうと言って仕事に戻った。

それから数年の月日をタツさんの好きなバーテンダーであるダーちゃんのやっている店で呑んだり居酒屋に呑みに行ったり携帯で連絡をとったりしながら過ごしてきた。

タツさんが気に入って着ていたshottoのライダースは痩せて合わなくなったからと俺に譲ってくれた。

……………………………………………


そして10月の末友人のヤギちゃんから連絡がきた。その時に話を聞く前に何故か嫌な予感がした。ヤギちゃんが俺に連絡をくれるのが久しぶりだったせいじゃねぇ


タツさんと親しい仲間内のヤギちゃんが俺に連絡してくることは普段殆ど無いことなんだ。タツさんのことだという予感が頭をよぎった。

「久しぶり。タツさんがまた入院したよ。今度ばかりは厳しい状況みたいだから、今のうちに会いに来れるならと思って連絡したんだ」


「マジかよ…わかった、連絡ありがとう」


福島に出張中だった俺はまたしても現場を途中でブン投げて千葉へ向かった。

うんざりするほど遅い軽のワンボックスをリミッターいっぱいまでブン回してタツさんの病室へ走った…

事前に聞いた話じゃ末期で治療の施しようが無い状態だという…今は痛みを抑える為だけにモルヒネを投与され殆ど寝ているか、夢うつつの状態だと聞いていた

ナースステーションにたどり着きタツさんの病室への訪問の許可をもらい会いに行った


タツさんの親父さんが見守る中タツさんは夕食中だった。食事といってもほとんど喉を通らない状態、飲むゼリーのような流動食を必死に飲んでいた

俺が顔を出し挨拶をするとタツさんは食事をやめた。


俺は飯の邪魔をしちまってすみませんと謝った。タツさんが具合悪いって聞いたから見舞いに来たんスよと言うと


「おぉ~、お前仕事大変なのに…」

と俺のことを気遣ってくれた…




タツさん…あんたの方がよっぽど大変だ


俺の仕事のことなんか大したことじゃない。休みが無かろうが残業だらけだろうが今の俺の目の前に居るタツさんよりも大変な奴なんて居るもんか…

話をしていることさえキツそうなタツさんと俺は数分喋った。

「ヤギちゃんやダーちゃんが毎日タツさんのとこへ遊びに来てるみたいじゃないっすか」

「おぉ」

「俺は遠いとこに出張中だからしょっちゅうは来れないけどまたタツさんに会いにきますから、しっかり飯を喰って元気になって下さいよ」


「おぉ」


「福島はすげえ寒くなってきたから、タツさんにもらった革ジャン着て気合入れて頑張ってきます」

「おぉ……ぶっ壊すなよ」

「はい、…ぶっ壊さないように大事に着ますから大丈夫ッスよ」

大事にしますから…


「タツさん、また来ますね」

「おぉ………」

朦朧とした状態でも俺を認識し、話をしてくれた。俺はもう我慢の限界が近づいていた。涙が溢れてきた。タツさんは半分目を瞑っているような状態だったが一生懸命に起きようとしてくれていた。

「タツさん俺もう現場に戻りますから」

と言うと親父さんが手を握ってやってくれと言った。俺はすすめられるままにタツさんの手を握ってまたこう言った。

「タツさん、また来ますからね。ちゃんと飯喰って元気になって下さいよ」

もう抑えることのできねぇ涙を拭うこともできねぇながらタツさんに言った。

タツさんは応えるかわりに握った俺の手をトントンと何度もたたいた。もう話す気力も無かったのかもしれない。

でも握りかえしてくれたタツさんの手は痩せ細った身体からは想像もつかないほど力強く、職人の手だった。

………………………………………………



それから数日の後、またヤギちゃんが連絡をくれた。

「今朝方5時頃にタツさんが亡くなったよ」

「……………連絡ありがとう………」



翌日通夜の為と言って現場を途中でバックレて高速をトバした。

空も俺もどしゃ降りだった。千葉へ着き礼服を着て斎場へ向かった。

見知った顔触れがもう到着していてタツさんとの別れを惜しんでいた。

生前タツさんが呑んでいたイーグルレアをバーテンダーのダーちゃんが持って来ていて、タツさんのまわりで一緒に呑んだ。

日付がまわる頃、斎場の職員が明日の段取りの為か一度施錠したいと言った。

仲の良かった呑み仲間達と皆でタツさんがよく行っていた居酒屋へなだれ込んだ

いつもは冷静に呑んでペースを崩さないスーさんがペースを崩し撃沈した

クールだが陽気なコウちゃんがしめやかだった

ヤギちゃんはタツさんとの思いでを面白おかしく語った

ダーちゃんはリニューアルした自分の店のカウンターに座ってほしかったとしきりに悔しがった

居酒屋の店主は閉店時間を過ぎても俺たちを追い出さず一緒にタツさんの話をした


朝方4時をまわり居酒屋に最後まで残っていた5人でタツさんのとこへ向かった

誰も居ない斎場で俺たちはタツさんを囲んで勝手なことばかり言って酒を呑み続けた。

俺の店の新しいカウンターに座らなかったような奴のために俺は泣いてやらねぇと言っていたダーちゃんはズルイことに鼻水が垂れるのも無視して号泣した。

みんな一緒に泣いていた…

俺は人前で泣くのは嫌だから我慢していたのにダーちゃんの号泣のせいで抑えがきかなくなり堰をきったように涙が溢れて号泣した…


朝方6時も過ぎただろうか、ヤギちゃんは斎場で椅子で寝た

俺も他の3人が帰った後そのまま椅子で寝た

昼前に始まる告別式に出て、火葬場へ行きタツさんとの別れを終えた

前日の雨がうそのようにとても良い天気だった

タツさんたくさんの思い出をありがとうございました


革ジャン大切にします。安らかに眠って下さい。









釣りの話じゃなくてかっちけねぇ…御免なすって。






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コメント

非公開コメント

もらいなき

大切な友人を失って辛いですね

文章がとても良くてリアルで私もその場で俯瞰しているような・・
感情移入してしまいました

「タツ」さんは 良いお仲間をおもちでした
希薄な人間関係しかない私には羨ましい限りです

タツさんには見ず知らずの私ですが ご冥福をお祈りします 合掌

申し訳ない

プンプン大佐

コメントいただきありがとうございます

また俺の大切な友人への弔いの言葉いただいて嬉しく思います。

この日記は記憶力の乏しい自分がこの日をいつでも鮮明に思い出せるよう、そして忘れることの無いようにありのままを書きました。

いつものニワカ江戸弁もどこへやら…

大佐は希薄な人間関係などと言ってますが、きっとそんなことはないと思いますよ。大佐のことをとても大事に思う友人や身内が間違いなく居ると思います。

こんなに人のことを考えてコメント下さる人なんですから間違いありません。

俺が勝手に保証します(^^)

御免なすって♪

No title

  

海おとこさん、おはようございます。

こんな言い方をすると叱られてしまうかもしれませんが、とても幸せな時間を過ごされたのですね。
偶然生まれ出てアッという間に死んでしまう、宇宙の時間の流れに比べればほんの一瞬の人生の中で、思い思われるお仲間をお持ちなのは素晴らしい幸運です。
ひとえに海おとこさんの人徳ですね(笑。
無為に馬齢を重ねるだけの僕も、とても羨ましく思います。

  

友人

咲いたマンさん

おはようございます。またコメントいただきありがとうございます。

咲いたマンさんのおっしゃる通り、思い返せばとても幸せな時間だったのかもしれません。

亡くなった友人を囲み思い出を語り合い一緒に酒を呑み、失礼なことに亡くなった友人に対して「なんで死んだんだばか野郎」などというせりふが飛んでいる…

皆がどれだけタツさんを失いたくなかったかがよく解ります。

俺には人徳なんてありませんが、いつの日か俺がくたばった時には御手数ですが言ってやって下さい。

「どうせ死ぬならお前らしく巨大魚に引きずりこまれて海で逝けと(笑)」

とりあえずこれからはそれを具現化すべく、巨大青物にチャレンジです。

御免なすって(^^)

No title

海おとこさん ご無沙汰してます こんばんは。

先ずはお悔やみを申し上げます。

そんな事が多くなってくる年頃ですね。

海おとこさんも身体は大事にして下さいね。

ありがとうございます。

しょういちさん

御気遣いいただきありがとうございます

段々とこういったことが増えてくる歳になってきてしまいましたね( ̄▽ ̄;)

仲間たちにはいつまでも元気でいてもらいたいと切に願います。

しょういちさんも身体に気を付けてずっと釣りを楽しんで下さいね♪

自分はおそらくですが…不死身との噂もたっておりますので大丈夫です(笑)

最強の友情

こんばんは。

コメント失礼させて頂きます。

素晴らしく男前の方ですね。
拝読させて頂き、涙が出てきました。

人間の価値って、他界された時にどれだけ泣いてくれる仲間が居るかかもしれません。

最強の友情ですね。

タツ様のご冥福を心からお祈りすると共に、ご親族、ご友人の方々にお悔み申し上げます。

友人に助けられる人生

アニさん

コメントいただきありがとうございます

俺は絵にかいたようなダメ野郎ですが友人はとても良い人ばかりでいつも助けられながらヨロヨロと生きています。

大切な友人への弔いの言葉ありがとうございます。きっと故人も喜んでいることと思います。

無鉄砲でダメな自分を支えてくれる友人達に感謝しながら、今後の人生をまっとうして逝きたいと思います(笑)

釣りはいつでも自分を癒してくれる、もはやライフワークです。アニさんもどっぷり釣にハマってはいかがでしょう♪
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